しびれドクターの独り言
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先日、度重なるボクシングの死亡事故につき「NHKクローズアップ現代」で少しだけコメントさせて頂きました。ボクシングによる死亡事故の原因は「急性硬膜下血腫」です。その損傷機序についてお話をしました。頭蓋骨の内側には大きな静脈が存在し、髄液の中をぷかぷかと浮いている脳と架橋静脈(かきょうじょうみゃく)とフリーな状態で繋がっています。顔面や頭部にパンチなどの強い外力を受けたとします。頭蓋骨は外力を受けた方向に瞬間的に移動しますが、ニュートンの第一法則(慣性の法則)〜外から力が加わらなければ、物体は静止し続け、動いているなら同じ速さ・同じ向きで動き続ける〜のため脳自体は止まっていようとします。そのため頭蓋骨と脳とずれ(ギャップ)が生じます。そのずれがひどくなると架橋静脈は過度に伸展され破断し、出血します。架橋静脈は硬膜の内側にあるので硬膜下出血の形となります。血腫が大きくなると頭蓋は閉鎖空間のため正常な脳が圧迫され、致死的な状態に陥ります。今回、香川大学の荻野祐一教授が素晴らしい研究結果を発表されました。荻野教授は減量後のボクサー選手を対象に脳MRIを施行し、「コツコツ減量」をした選手に比較して、急激な「水抜き減量」を行なった選手の脳が全体的に縮まっていることを明らかにしたのです。以前、猿の実験で脱水で脳の体積が減少するとの論文を読んだことがあります。脳の体積が減少すれば外傷時の頭蓋骨と脳のずれによる架橋静脈の破断のリスクも上昇するように思われますが残念なことにまだエビデンスはありません。プロボクシングでは以前は試合当日直前の計量でしたが、減量で体力の低下した選手による試合は危険であろうとの判断で今は前日計量となっております。しかしこの前日計量にも落とし穴があります。試合前日に極限まで減量した選手は計量の後、大量の食事、水分を摂取します。これにより1日で5ー6kgも増量する選手もいます。この急激な体重増加は生理的なものでなく心臓や脳にストレスを与える可能性があります。脱水で縮んだ脳が急激な加水によって浮腫(むくみ)を起こしているかもしれません。通常の状態より脳が外力に対して弱くなっていると考えられます。ボクシングは打撃により相手に脳振盪を起こさせて勝敗を決定する基本的に危険なスポーツです。その危険を少しでも減らすためにはどうしたら良いのか対策を検討することががJBCやボクシング連盟の使命でしょう。また我々スポーツドクターの使命でもあります。自分としては試合をする選手は前日計量でなくその数カ月前からの体重や採血、尿比重を含めた医学的モニタリングが必要と考えています。今後協会にも提言していきたいと思います。
下記をクリックすると加速損傷の病態の動画を御覧になれます。